株式会社 三木製作所  インナーブランディング協働プロジェクト

 

会話を重ね、新社長の想いを“可視化”する。

社員全員が主体的に動く企業へ。

 

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(株)三木製作所は、大阪市西淀川区に本社工場を持つものづくり企業。建材・住宅設備・製紙メーカーを主な取引先として、精密金型・エンボスロールなどを製造販売されています。今回aroundが取り組みをサポートした「インナーブランディング協働プロジェクト」。その振り返りとなる、代表取締役社長 三木元親氏とaround 黒田の対談を実施しました。

 

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業種:精密金型・樹脂金型製造業

課題:事業承継時の課題をはじめとする、新しい時代のものづくり企業のあり方を模索

サポート内容:

①ビジョン・ミッション・バリュー策定サポート

②クレドの策定サポート

③事業承継課題への取り組み企画等の提案など

※月2回の定例ミーティング実施にて

サポート期間:2022年4月~12月

効果:事業承継後新体制での企業方針の共有、社員・役人の意識付けや社内コミュニケーション改善など

 

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目次

三木製作所が抱える課題

事業承継のタイミングだからこそ、どんな企業で、どこを目指すのか?を見つめ直す。

核心に触れないと表面的なものになってしまう。どこまで深掘りしていけるかを考え、会話を繰り返す。

・今の時代の前提条件で考える。

従業員からも改善に対する意見が増えた。みんなが主体的に動ける指針に。

 

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三木製作所が抱える課題

 

三木社長:三木製作所は、家族経営からはじまった、いわゆる町工場です。現在、社員は(役員含め)6名。そのうち、私を含む4名が身内です。私は、7年間の商社勤務後、2019年に三木製作所に入社したのですが、公私のあいまいな部分も多く、従業員は働きやすいのだろうか?と思っていました。家業と企業の間を彷徨っていて、企業になりきれていないというのが課題。

 事業としても、金型の仕事をはじめてから約20年続いていましたが、このままだと多分食べていけなくなるという思いもありました。ビジネスモデル的にも落ちてくることが予測出来るので、何かしないと!と。また、取引先から「これ作って」と依頼されたことだけをする会社で、社内にこもっていることも多く、外に出ていくことが弱い。そんなこともあって、外部から協力してくれる人を求めていました。

 

 

きっかけは、20223月の「空間演出デザインフェスタ」

 

三木社長:弊社も展示会出展をする機会があるので、いい展示の仕方や見せ方、販促方法がないかと大阪産業創造館で開催されていた「空間演出デザインフェスタ2022」を訪れました。そこで、出展者の黒田さんに出会いました。

 最初は、自分たちの出すブースをお洒落にするにはどうするか。旧工場など空きスペースの活用法などを相談しました。

 

黒田:近々、事業承継をされるということもお聞きしました。様々な課題を抱えているのかな?と思い、一度、詳しくお話聞かせていただけますか?とお伝えしました。

 


三木社長:そうでしたね。多くの出展者の中から黒田さんをパートナーに選んだのは、まず、グイグイ感が全くなかったから(笑)。穏やかにお話していただけたのが大きかった。また、中小企業勤務の経歴があることや、そのデザインのお仕事もされているということも聞いていたので、弊社でも活かしていただけるのかも?と。

 

黒田:展示会のテーマが「空間演出」でしたので、空間のお話で始まったものの、事業承継の複雑な問題が絡んでいる中での空間活用などの課題ということでした。これは立ち話で聞き切れるような内容じゃないなと(笑)。私もかつて中小企業で事業や経営についての業務に取り組んだ経歴があり、三木社長の気持ちをよく理解出来ました。何か力になれるのではと思いました。

 また、三木さんは三木製作所外でお仕事をされてこられた経歴があり、とても冷静に自社のことを見られていた。ぜひ一緒にお仕事をしたいなと思いました。

 

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事業承継のタイミングだからこそ、

どんな企業で、どこを目指すのか?を見つめ直す。

 

黒田:まずは、三木製作所の現状、事業承継の経緯やお悩みをお聞きしました。その中で、旧工場や他にお持ちの不動産物件の話、将来的に企業としてどうあるべきかという話、関わる地域の話なども考えたいということでした。

 目先の課題に対しての対処ということではなく、事業承継時だからこそ、“企業ということは、どういう存在か?”という根本部分や、“三木製作所は、どんな企業で、これから何を目指していくのか?”をこのタイミングで見つめ直す必要があるとお伝えしました。そのために何からやっていきましょうかと。

 

三木社長:私が社長になるのであれば、こういう会社にしたい!という思いの洗い直しや、掘り出しをしてもらいました。

 

黒田具体的な取り組みとして、まず、三木社長の考えを探っていく作業を進めました。併せて、それを明文化するため、企業としてのビジョン・ミッション・バリュー策定を提案しました。企業理念や経営方針を置き換える時に、どういう言葉を使ってどんな方向性を示すのかを、こちらから投げ掛けながら考えていただく。そんなやり取りを繰り返しました。

 

 また、事業承継時の課題や、ものづくり中小企業に起こりうる課題についての意見交換も行いながら進めました。そのうちの一つが、後継者問題。そこで問題に対するアプローチとして、事業承継する側とされる側、2世代トークイベントが出来ないかというアイデアも出て、すぐに動けそうな取り組みとして実行プラン作成を進めていきました。

 

三木社長:しかし、最終的に外部との交流イベントなどはペンディングにさせてもらいました。まず先に自社内部にフォーカスすることに専念しようと。イベントの実行プランと同時にビジョン・ミッション・バリューを考える上で、やはり自社の根幹が大事だということに気づかされたんです。振り返ると、外に逃げようとしている部分があったかなと思います。

 

黒田:様々な視点での検討を進めていましたが、取り組みの優先順位として外部向けのイベントが最優先ではないのでは?という話から、そうじゃないよねと気づいていただいた。

 イベントの座組みは、例えば月1回開催といったペースの中で、同じような悩みを持つ後継者の方とまずは話をする場をつくりましょう!と。旧工場の空きスペースで運営すれば、広がりも出るのではないかという話をしながら、結構内容も詰めていましたが(笑)。

 

三木社長:8~10月あたりで、急ブレーキ(笑)。10月に期が変わるので、10月を目処に、翌年2月に実施出来ればと思っていましたが、ちょっと待てよと。対外的発信などの話もしていたのですが、それをするためには自分たちが何者なのかを明らかにすることが一番大事だと思い直せました。

 イベントについては、趣旨に賛同してくれそうな人に声を掛けたのですが、あまり良い返事をもらえないこともありました。事業承継の当事者の関係性が弊社と違う場合もある。全く考えが違う後継者もいて、弊社にはプラスの取り組みになるけれど、他社にとっても同様とは限らない。

 

黒田:単純にいくような話でもなかったですね。問題をポジティブに捉えられないケースもあるということ。

 

三木社長:「三木製作所とは?」というのがはっきりしない中で、外向きに出ていくのはブレてるなという思いがありました。

 

核心に触れないと表面的なものになってしまう。どこまで掘っていけるかを考え、会話を繰り返す。

 

黒田:ビジョン・ミッション・バリューは、フレームワーク的に内容を仮埋めしながら考えていただきました。このような理念は、その時考えてパッと埋めて完成するものではないので、様々なワークを並行しながら進めていきました。

事業承継の話から見えてきたこともあり、そこからまた三木製作所の根幹に向き合うことに集中しましょうとうまく切り替えが出来たかなと思います。

 

三木社長事業承継という課題があるから、よりシビアにビジョン・ミッション・バリューを考える必要があると思いました。コロコロ変えられるものではないし、考え抜いたものをアウトプットしないといけないと感じていました。

 フレームワークの実践はとても良かったです。また、黒田さんが他社の様々な事例も紹介してくれましたので、それに沿って弊社ならどうだろう?と。とても考えやすかったです。

 

黒田:私も会社員時代に事業を考える仕事をしていた時に悩んでいたことやぶつかった経験があったので、そこを救えるような投げかけをしました。やはり三木社長が最も大切に考えていることが一番重要で、そこから発せられるメッセージであるべきだと。

 

 今までの三木製作所は、お客様第一という考えに基づいた方針だった。しかし、三木社長ご自身は“自社の従業員にしっかり働いてもらえる環境をつくる”、 “従業員が健全で幸せな生活を送る”がベースにあって、その上で、良い仕事が出来るという方針に変えたいという思いを持たれていた。

 そのためにどういうメッセージを据えるべきかを意識しながら、〇〇について考えましょうとか、こういう捉え方の場合はどう思われますか?などの壁打ちを続けながら思いを言葉に置き換え、更新していきました。

 

そして、従業員の方が、その考え方をどう受け取って行動して欲しいかをクレドとして落とし込んでいきました。

 

三木社長:打ち合わせは、月2回(10ヶ月間)ですので計20回ぐらい。メールなどでも、これに対してどう考えますか?というものをいただいて、私の中で整理して打ち合せまでにお返ししてというやり取りもしながら、秋から冬にかけて内容を詰めていきました。

 

黒田:他にも、ものづくり企業の展示イベントなどの情報を共有してそれぞれ足を運んだり、三木製作所さんが出展される展示会にお伺いしたりもしました。そんな数々の取り組みを経て、ビジョン・ミッション・バリュー、クレドを組み上げました。補足となるヒントとしてのフレームワークや他社事例を用意しましたが、取り組みの中心は言葉のやりとり。本当に会話に尽きるというか、核心に触れないと表面的なものになってしまうので、“想い”の部分をどれだけ掘り出せるかを一番考えていたと思います。

 

 ちなみに、私の業務のメインは空間設計デザインですが、空間をつくるということは、あくまでも課題を解決する手段の一つに過ぎず、物質的なものをつくることだけでは解決出来ない課題もあります。

 まずは、様々な対話を繰り返しながら課題の本質まで掘り下げていき、課題を共通認識した上で、解決にふさわしい手段やプロセスを選択する。今回の取り組みは、私に出来る解決の出口の一つとして、空間をつくるという手段と同じ捉え方なんです。

 

 

『VISION』 実感できる身近な幸せや暮らしの豊かさづくりに貢献すること

『MISSION』 これからのあたりまえをカタチにする

『VALUE』 挑戦とサポート

『CREDO』 1.人生を楽しむ 2.真面目に働く 3.しっかり休む 4.規律を守る 5.他者を慮る 6.自ら考え行動する

 

三木社長:みんなが見て理解出来る内容のものになったというのが良かったと思っています。これを私だけが思っていても意味がないというのはありましたので。従業員までちゃんと理解して行動に移せるものが出来ました。

 

黒田:特にクレドは、難しい言葉を使ったものではなく、子どもに言っても分かるようなものにというお話をしました。ごく当たり前なことを当たり前に出来ることとしてつくったものが良いのではとお伝えしながら進めました。

 

三木社長:どうすれば、ビジョン・ミッション・バリュー・クレドが浸透するかなというのが悩みでした。弊社ではそういう文化や風土がなかったので、つくって終わりにならないかなと。それに対して、時代とともに当たり前とされていることや様々な前提条件が変わってきているということを伝えてみてはと黒田さんが言ってくました。それを従業員や前社長に伝えると理解してもらえた。私だけだったら少し感情的に伝えてしまって難しかったかもと思いますね。

 

 

今の時代の前提条件で考える。

 

三木社長:このプロジェクトを通して気づかされたことがあります。まずは、社内を見ることの大切さに気づかされたこと。そして、黒田さんが言われていた“前提条件”という言葉がとてもインパクトがありました。古い前提条件で今までの会社は運営されてきたけど、時代が変化していることをしっかりと受け止め、今の時代の前提条件で物事を考えられる会社になる必要があると気づかされました。

 

黒田:日本の中小企業は、伸びていた時代の成功体験が忘れられないところがあると思っています。そのやり方で事業を育ててきたからこそ今があるのは間違いありません。しかし、人口が減っていく社会という前提条件などは当時なかった。社会のあらゆる前提条件がすでにひっくり返っているということが実感として気づけていない。そのことがいろんな問題の元凶になっているような気がします。そこを理解して見つめていかないと根本的なアプローチは出来ないのではないかと感じています。

 

 今までのやり方が必ずうまくいくという前提条件があった時代は終わった。現状をシビアに見ていかないと問題は解決出来ないだろうというお話をさせていただきました。

 それはものづくり企業だけではない、この国の社会全体の話です。日本の今のあらゆる状況下で、昔の仕組みが足かせになっていることがいろんな課題となって出てきているなと思っています。

 

 

従業員からも改善に対する意見が増えた。

みんなが主体的に動ける指針に。

 

三木社長:結局、2019年に入社してから、いろんなことを変えてきたんですけど、ビジョン・ミッション・バリューが出来て、やっと変えている意味を理解してもらえる体制が出来た。私がやってきたことが見当違いなことじゃなかったと、かたちにして示せたのがまず一つ大きい効果です。

 従業員にとってもプラスになることが多い内容です。今までの与えられた仕事をやらされている感覚から、主体的に仕事をしているんだというリアクションに変わってきた。動ける指針が出来たというのが一番大きいです。会話が増え、従業員からも改善に対する意見が増えた。コミュニケーションが双方で出来るようになってきて、それは目に見えて変わったと実感しています。

 

黒田:事業承継課題への取り組み企画なども一応ストップはしていますが、まだ企画として生きています。然るべきタイミングが来た時にまた実行するのも良いと思います。ビジョン・ミッション・バリューが決まったことによって新しいプロジェクトが進めやすくなったのではと思います。

 

三木社長:自社内部が鍛えられたので、外に向かってやっていくことを進めたいですね。まだ内部が整っていなかったので、協力体制も出来てなかったんですが、今は大丈夫。その意味も説明出来るし、どういう理念に沿ってやっているのかを説明しやすくなって活動しやすくなった。

もちろん、しっかり進めるためには、社員みんなが“健康”でいることが大事です。残業せず、休みもしっかりとって、健康的に仕事を継続していきたいです。その結果、お客様に還元出来ればいいなと考えています。

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〈対談を終えて〉

三木社長:1年前から始まったプロジェクト。つくって満足していたらダメだと改めて思いました。ちゃんと運用して、これに沿った会社になることがゴール。

 また、先代が掲げたものを掲げっぱなしの会社は結構あって、困っている中小企業は多いのではないかと思います。いち早く変えられて良かったなと思います。非常に感謝しております。

 

黒田:根本から見直すというお話に目を向けられる経営者の方とめぐり逢えたというのは、すごく嬉しかったです。そこで少しでもお役に立てるようなことが一緒につくれたのは、いい経験をさせていただけたと思っています。今後も様々な局面でお手伝いさせてもらえたらと思います。

 


撮影・取材協力

ハヤシヒロマサ コピー&デザイン